2008年 02月 10日
トタン屋根に下トタン |
トタンは建材の王様ではないだろうかと思う。
鉄鋏で好きな大きさに切ってトタントントンと釘で打ち付けてしまえば途端に立派な外壁となる。さらに上からペンキを塗れば錆び止めにもなって長持ちもする。たとえ一部分錆びたりして穴が空いたとしてもその上からまた適当な大きさに切ったものを貼付けてしまえば、補修も破れた服に接ぎを当てるがごとく。これにコンクリート・ブロックと四つ割の角材で建材三種の神器というのはどうだろう。その三つだけで何となく仮小屋くらいは建ちそうだ。
トタン壁の家屋は都会ではみすぼらしくもみえ新築のものなどはもってのほかで、もしかしたら絶滅危機かと観紛いそうだが、一旦都会を離れ農村漁村エリアに出てみればそりゃいやというほどトタン張りの建造物に出会うことだろう。都会人的視点(カテゴリー「風情」)からすると錆びたトタンの今にも朽ち果てそうな廃屋などはすぐ目につくのだろうけれども、それ以外にもトタンは様々な形で利用されていて、あまりにも周囲に溶け込んでいるせいかよほど意識していないと見逃してしまうことの方が多い筈だ。つまり意識してみて初めてトタン利用率の驚くほど高いことに気がつくというわけだ。
トタン張りの家屋でまず目につくものといえば、例えば農業用の機械や道具を入れておく倉庫やガレージ、番小屋などだろう。これはトタンの持つ「応急」というイメージにぴったり合っていて、いかにもトタン張りが似合うというのは当然のごとし。おもしろいのは古い民家の板や漆喰の壁の部分を奇麗にトタンで覆ってしまうもの。多分雨風で朽ちかけて来たのでいっそのこと全部覆ってしまえという、安直かつ実利一辺倒の考えから来ているのだろうと思う。しかしその上から好みの色のペンキが塗り付けられるというだけで、なし崩しな自己主張がおずおずと割り込んで来るような気がしてならない。ましてや茅葺き屋根をすっぽり覆い隠してしまっているような家を見ると、その思い入れのなさと思い切りの良さに頭(「こうべ」と読もう)を垂れるしかない。(実際はうらはらかもしれない)
一口にトタンと言ってもいろいろあるようだけれどなんといっても波板トタン、ごくごく当たり前にイメージ出来る細かい波目の凹凸が筋状についたやつ。最近はいろいろな形状のものも出て来て静電塗装など施されたてらてらした感じのものもあるけれど却って安っぽくみえる。やはりここではごく普通の波板トタンに刷毛塗りのペンキ仕上げというのを王道としたい。
ペンキを塗りたくったとしても意外と簡単に錆が出て来るのもトタンの特徴であるようだ。自家用車だったら塗装が剥げて錆が出たところをヤスリなんぞで擦り取ってから補修するところだが、ぞんざいが似合うトタンの場合はワイルドにそのまま上からペンキを塗り付けるのが正統だろう。いくら錆びやすいとはいえ錆が出て来るには最初に塗ったペンキが色あせるくらいの時間は必要だろうから、たとえ同じ色のペンキを補修に使ったとしても色むらが出てしまうのは避けられない。さらに置いておくとペンキの下に隠された錆の部分が剥がれて瘡蓋のようになって浮き出して来る。それでもぞんざいの泉は枯れることもなく、顔色一つ変えず(想像)その上からペンキを塗って澄ましている。そのうえ同じ色のペンキがなければ手近にある有り合わせのペンキを使って済ませてしまうことにもためらいはないように観える。
そういうものの繰り返しによって何ともいえぬ風合いが出て来た物件を見つけるとしみじみ時間をかけて眺め回したくなる。田舎の細道を走っていてふと目についたものを、最近は見過ごすことが出来なくなっている。ところが不思議なものでそういう時に限って後続車につめられていたり、適当な駐車スペースも見当たらず、ずいぶん先まで行ってUターンを余儀なくされることとなる。三歩進んで二歩下がる。
波板トタンにペンキと錆とぞんざいな補修。自然が醸す造形と生活に馴染んだ、野心を伴わない無垢なヒトの美意識とが、なんとも柔らかに融合している現場をそこに観るような気がする。そしてそれがはびこるのは丁度自然と人為的なものとがせめぎあう最前線、「田舎」という場所と不思議に一致している。
by digitaris
| 2008-02-10 17:24
| ペンキ塗ったトタン