2008年 06月 10日
くうき |
「独立の(レッツラ)精神(ゴン)」(赤塚不二夫)
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「空気を読む」つもりがないので別にどうでもいいが、一般的共通語として読めるのだとしたらちゃんと翻訳して見せておくれよ。なーんて難癖つけること自体くだらんけど。でもとりあえず「空気」というのはなくてはならないものだしだから科学的には(多分)よく解明されているのだと思うけれども、無色透明であまりにも何気ない存在であるがために動物的感覚からすれば思いのほか曖昧なものだ。息を吸い込むときのこの重みが空気の存在感なのか、とりあえず真空を生身で経験出来ない(こともないが一巻の終わりな)わけだからあるなしの比較は出来ないし、息をしているということと「もの」である空気の存在との関係性がぼやけていてとにかく頭の中でそうはうまく繋がってはくれないのだ。だからあたりまえでしかし曖昧な存在であるがために、かえって好き勝手な解釈を持ち込んで楽しめるというのは確かに分かるけれど、それにしても「空気を読む、読まない」はまず発想からして卑しいのだよ。
そういえばそんなことに目を向けるチャンスは、こういったみょうちくりんなきっかけ以外にはなかなかやって来ないものだな。息をすることの不思議は世の中でも一番地味な不思議の一つだ。
空気がなけりゃ「食う気」も起こらんだろうけど、空気のおかげで「気」が空っぽになっているとしたらそれは由々しき問題だ。空気はまだ物質だから「ある」と言うことは出来るけれど、「気」は受け止める方の個別の感覚でしかないから「空気」よりもっと曖昧だし、だいいち「ある」かどうかも定かではない。「気配」とか「気合い」とか「気障り」とか「気」についての言葉は数々あれど、どれも「気」のことを単独で説明してくれるものではなく何となく曖昧な状況判断の中に「気」を感じるというところに留まっているだけだ。しかし人を見て「気合い」が入っているなあと分かるのは、観察した細かい条件を総合して判断するのだと後からはいくらでも説明出来るが、その瞬間に於いてはすべてをひっくるめた「気」というものを直感するからだと言い切ってもおそらく否定されることはほとんどないだろう。
田んぼ一面の稲の穂が風によって波打つような動きをみせる様子に、血の通った生き物と同じ脈動を観るのは僕だけだろうか。稲の穂を揺らす直接の原因は風によって動く空気の物質的な圧力だが、その空気にそのような不規則で自由闊達な動きを与える「風」というものの陰に、どことなく「気」の存在をみる。
飛行機(こうくうき)のようなものに初めて乗れたのは大分歳をとってからだが、楽しい思いをさせてはもらえたものの空を飛びたいという願望を満たしてくれるものではなかった。その願望とは多分気球のようなもので大気の流れの中に取り込まれながら浮かんでいるというようなイメージなのだ。風を切って進むよりただ空間に身をゆだねていたいのだ。
雲は空の何もない空間から突然現れモコモコと増殖して行く。あるいは一面の曇り空にわずかな切れ目が出来たかと思うと長い時間をかけて不思議な連続性を持った鱗雲のような形に育ってゆく。雲の濃いところと薄いところ、絶えず変化し続ける透明な空間と雲の薄い部分との境界点(面)、そこは水分の多少や温度差、気流の微妙な影響に絶えず揺れ動いている極めて繊細な場所だ。いったいそれがどういうものなのかどういうことなのかどういうところなのか理解出来るわけではないけれど、何となくその現場に立ち会って居たい。そこに「気」の不思議が隠されているような気がするから。これはきっと夢の中で経験したことなのだろうと思う。同じように田んぼの稲の波打つ面に稲の中から顔を覗かせてみたい。これは一見可能なようでなかなか出来ないことだぞベラマッチャ。
そう、だいたいからして気象というものじたい地球の磁気や自転、さらには太陽や月の振舞いの影響によって有機的に変化する現象であるのだから、気象の「気」は単に空気を意味しているのではない筈だ。とすると、「気」が空っぽだから「空気」と言うのではないのだね。「気」が空に充満しているという意味かな。
しかし逆に空気がなければ「気」もないのか、真空の宇宙空間ではいったいどうなのか。ニャぜ猫はミャタタビにゴロニャンするのニャ、ニャロメ!何故満月の夜に狼男(女)に変身するのか。砂浜で日光浴をしているときに、紫外線だけでなく太陽の「気」の揺らめきを感じることはないのか。もし感じるとすれば宇宙空間にも「気」が作用しているということにはならないか。
最近ではその真空とされる宇宙空間にも「ダーク・マター」という物質が存在するのではないかという話も持ち上がって来ているが、面白いじゃないか、もしそうだとしたらこの宇宙に「ない」という場所は存在しないのだ。
宇宙はただ「ある」のみ。「ない」は心の中にのみ「ある」。
by digitaris
| 2008-06-10 18:52
| 反復ラブ